歯列矯正、特に抜歯を伴う治療は、歯並びだけでなく顔の印象にも変化をもたらすことがあります。口元の突出感が改善され、すっきりとした横顔になることで「小顔になった」と感じる方も多く、それは大きな喜びとなるでしょう。しかし、この顔貌の変化は必ずしもすべての人にとってポジティブなものとは限らず、時には「思っていたのと違う」「口元が下がりすぎた」といった後悔に繋がる可能性も否定できません。抜歯矯正で後悔しないためには、事前に知っておくべきこと、そして心構えが重要になります。まず理解しておくべきなのは、抜歯によって歯を動かすスペースを作り、前歯を後退させると、口周りの軟組織(唇や頬)もそれに伴って変化するということです。この変化の度合いは、元々の骨格、歯の傾き、唇の厚み、皮膚の弾力性など、多くの要因によって左右され、個人差が非常に大きいのが現実です。シミュレーションなどで予測はできますが、ミリ単位で正確に予測することは困難です。したがって、「絶対にこうなる」という過度な期待は禁物です。次に、抜歯矯正による顔の変化は、一度行ってしまうと元に戻すのが非常に難しいということを肝に銘じておく必要があります。健康な歯を抜いてしまった後に、「やっぱり抜かなければよかった」と思っても、歯を元に戻すことはできません。そのため、治療開始前のカウンセリングで、担当の歯科医師と納得いくまで話し合うことが不可欠です。「どの歯を抜き、どのように歯を動かすのか」「それによって顔の印象はどのように変わる可能性があるのか」「考えられるリスクやデメリットは何か」といった点を具体的に確認し、疑問や不安はすべて解消しておきましょう。場合によっては、セカンドオピニオンを求めるのも良い方法です。また、インターネット上の体験談や症例写真は参考にはなりますが、自分にも全く同じ結果が現れるとは限りません。他人の成功例だけを見て安易に決断するのではなく、ご自身の状態に基づいた客観的な情報を得ることが大切です。そして最も重要な心構えは、歯列矯正の本来の目的を見失わないことです。第一の目的は、美しい歯並びと正しい噛み合わせを獲得し、口腔内の健康を長期的に維持することです。小顔効果は、あくまでその副次的な結果として得られる可能性のあるものと捉え、それに固執しすぎないようにしましょう。