田中さん(仮名・20代男性)は、子供の頃から前歯の叢生、いわゆる乱杭歯に悩んでいました。特に上の前歯が大きく捻れて重なり合っており、笑うとそれが目立つため、人前で口を開けることに強い抵抗感があったと言います。学生時代には、歯並びのことで心ない言葉をかけられた経験もあり、それがトラウマとなって、次第に笑顔を見せることが少なくなっていきました。食事の際にも、歯と歯の間に食べ物が挟まりやすく、歯磨きも非常にしづらいため、虫歯のリスクも常に感じていたそうです。社会人になり、営業職として多くの人と接する機会が増えたことが、本格的に歯並びの治療を考える大きなきっかけとなりました。第一印象が重要となる仕事柄、自分の笑顔に自信が持てないことは大きなハンデだと感じ、コンプレックスを克服して前向きに仕事に取り組みたいという強い思いから、矯正歯科の門を叩きました。精密検査の結果、田中さんの叢生の程度は中程度から重度であり、歯が並ぶためのスペースが絶対的に不足していることが確認されました。担当の矯正医は、上下左右の第一小臼歯(前から4番目の歯)を計4本抜歯し、そのスペースを利用して歯を綺麗に並べる治療計画を提案しました。治療装置には、最も一般的で確実性の高いマルチブラケット装置(ワイヤー矯正)を使用することになり、治療期間は約2年半と説明されました。抜歯を伴う治療であることや、長期間にわたる装置の装着に不安もあった田中さんですが、治療後のシミュレーション画像で見た整った歯並びの自分の姿に希望を見出し、治療に臨むことを決意しました。治療が始まると、最初の数ヶ月は装置の違和感や歯が動く痛み、食事のしづらさなどに戸惑うこともありましたが、毎月の調整で少しずつ歯が動いていくのを実感するうちに、モチベーションを維持することができたと言います。特に、抜歯したスペースが徐々に閉じていき、重なり合っていた前歯が綺麗に並び始めた時には、大きな喜びを感じたと語っています。そして、約2年半の治療期間を経て、ついに矯正装置が外れる日がやってきました。鏡に映った自分の歯並びを見た田中さんは、その変化に言葉を失うほど感動したそうです。以前の面影がないほど美しく整った歯列は、まるで別人のようでした。