「八重歯(やえば)」は、犬歯が歯列の正しい位置から外れて、唇側(外側)に飛び出している状態を指します。日本ではチャームポイントとして捉えられることもありますが、歯科医学的には不正咬合の一種であり、見た目の問題だけでなく、様々な機能的な問題を引き起こす可能性があります。八重歯の主な原因は、犬歯が生えてくるためのスペースが不足していることです。永久歯の中で犬歯は比較的遅い時期(10歳から12歳頃)に生えてくるため、それ以前に他の歯が並んでしまうと、犬歯が本来の位置に収まりきらず、外側に押し出されるようにして生えてしまうのです。この八重歯を歯列矯正治療で改善するためには、まず犬歯が正しい位置に収まるためのスペースを確保する必要があります。スペース確保の方法としては、前述の通り、犬歯の後ろの小臼歯を抜歯する方法や、歯列全体を拡大したり、奥歯を後方に移動させたり、IPRを行ったりする方法があります。どの方法を選択するかは、八重歯の突出度合い、顎の大きさと歯の大きさのバランス、他の歯並びの問題などを総合的に考慮して決定されます。スペースが確保できたら、いよいよ犬歯を歯列内に誘導していきます。一般的なワイヤー矯正の場合、まず八重歯の歯にもブラケットを装着し、そこに細くて弾力性のあるアーチワイヤーを通します。最初は、八重歯が歯列から大きく外れているため、ワイヤーが大きく湾曲した状態になりますが、ワイヤーが元の形に戻ろうとする力を利用して、徐々に犬歯を歯列内に引き込んでいきます。この際、必要に応じてエラスティックゴムやスプリングなどの補助的な装置を使用して、効率的に犬歯を移動させることもあります。犬歯は歯根が長く、しっかりとした歯であるため、移動にはある程度の時間と適切な力加減が必要です。無理な力を加えると、歯根吸収や歯肉退縮といった問題を引き起こす可能性があるため、歯科医師は慎重に力をコントロールしながら治療を進めます。犬歯が歯列内に収まり、他の歯と調和の取れた位置に並ぶと、見た目が大幅に改善されるだけでなく、歯磨きがしやすくなって虫歯や歯周病のリスクが軽減されたり、唇や口の粘膜を傷つけることがなくなったりといったメリットが得られます。八重歯でお悩みの方は、一度矯正歯科医に相談してみることをお勧めします。