歯列矯正治療でブラケットを歯に装着する際、「接着剤を長期間歯につけていて大丈夫なの?」「歯に悪い影響はないの?」と心配される方もいらっしゃるかもしれません。結論から言うと、歯列矯正で使用される歯科用接着剤は、生体親和性が高く、適切に使用されれば歯や体への安全性は十分に考慮されています。矯正治療で一般的に使用されるレジン系の接着剤は、歯科治療の様々な場面(例えば、虫歯治療の際の詰め物など)で長年にわたり使用されてきた実績があり、その安全性は多くの研究で確認されています。これらの接着剤は、アレルギー反応を引き起こす可能性が極めて低い成分で構成されており、唾液に溶け出して体に悪影響を及ぼすこともほとんどありません。また、ブラケットを装着する際には、歯の表面を清掃し、エッチング処理という歯の表面をわずかに粗造にする処置を行った後に接着剤を塗布しますが、このエッチング処理もエナメル質の表層数ミクロンにとどまるため、歯の構造に大きなダメージを与えるものではありません。むしろ、この処理によって接着剤が歯の表面に微細な凹凸に入り込み、機械的な嵌合力を高めることで、強固な接着が得られるのです。さらに、最近ではフッ素徐放性の接着剤も多く使用されています。これは、接着剤からフッ素が徐々に放出されることで、ブラケット周囲のエナメル質の再石灰化を促し、虫歯になりにくくする効果が期待できるものです。矯正治療中は装置の周りに汚れが溜まりやすく、虫歯のリスクが高まるため、このような機能を持つ接着剤は非常に有効です。ただし、どんなに安全な接着剤を使用しても、最も重要なのは治療中の適切な口腔ケアです。接着剤やブラケットの周りにプラーク(細菌の塊)が付着したまま放置されると、接着剤の劣化を早めたり、歯肉炎や虫歯の原因になったりする可能性があります。歯科医師や歯科衛生士の指導に従い、毎日の丁寧な歯磨きを心がけることが、接着剤の性能を維持し、歯と歯周組織の健康を守る上で不可欠です。適切に使用され、しっかりとケアされていれば、歯列矯正用の接着剤が歯に悪影響を及ぼす心配はほとんどないと言えるでしょう。