受け口(下顎前突)の中でも、顎の骨格のズレが大きく、歯の移動だけでは十分な改善が難しいと判断された場合、「外科手術を併用した歯列矯正治療(外科的矯正治療)」が選択されることがあります。この治療法は、顔貌の劇的な改善や、より安定した噛み合わせが得られるという大きなメリットがあり、特定の条件を満たせば健康保険が適用されることもあります。外科的矯正治療が保険適用となるのは、「顎変形症(がくへんけいしょう)」と診断された場合です。顎変形症とは、顎の骨の形や大きさ、位置の異常によって、噛み合わせや顔貌に問題が生じている状態を指します。受け口も、その原因が骨格的な問題にある場合は、顎変形症の一種とみなされます。保険適用で治療を受けるためには、厚生労働大臣が定める施設基準を満たした医療機関(主に大学病院や総合病院の口腔外科と矯正歯科)で、診断と治療を受ける必要があります。外科的矯正治療の一般的な流れは、まず「術前矯正」から始まります。これは、手術後に理想的な噛み合わせが得られるように、手術前に歯並びをある程度整えておくための矯正治療です。期間は半年から1年半程度かかることが一般的です。術前矯正が完了すると、いよいよ「顎骨切り手術」が行われます。全身麻酔下で、口腔外科医が顎の骨を計画通りに切って移動させ、チタン製のプレートやネジなどで固定します。手術の内容は、下顎骨だけを後退させる手術(下顎枝矢状分割術など)や、上顎骨を前進させる手術(ルフォーI型骨切り術など)、あるいは上下両方の顎の骨を同時に手術する場合もあります。入院期間は、手術の内容や術後の経過によって異なりますが、おおむね1週間から2週間程度です。手術後は、顔の腫れや痛み、開口障害などが一時的に現れますが、徐々に回復していきます。そして、手術から数週間後、顎の骨がある程度安定してきたら、「術後矯正」を開始します。これは、手術後の噛み合わせをさらに精密に調整し、最終的な仕上げを行うための矯正治療です。期間は半年から1年程度かかることが一般的です。術後矯正が完了し、噛み合わせが安定したら、矯正装置を外し、保定期間へと移行します。費用やリスク、治療期間などについて、担当の歯科医師や口腔外科医と十分に話し合い、納得した上で治療に臨むことが大切です。