受け口(下顎前突)は、見た目や噛み合わせの問題だけでなく、「滑舌」や「発音」にも影響を与えることがあります。下の歯が上の歯よりも前に出ているという特徴的な噛み合わせが、舌の動きや息のコントロールを妨げ、特定の音が不明瞭になることがあるのです。歯列矯正治療によって受け口が改善されると、これらの発音の問題も解消される可能性があります。受け口の方が特に発音しにくいとされるのは、サ行(さしすせそ)、タ行(たちつてと)、ナ行(なにぬねの)、ラ行(らりるれろ)といった、舌先を上の前歯の裏側や歯茎に接触させて発音する音です。受け口の場合、下の前歯が邪魔をして舌先を適切な位置に持っていくのが難しかったり、上下の前歯の間に隙間ができて息が漏れやすくなったりするため、これらの音が不明瞭になったり、舌足らずな発音になったりしやすいのです。例えば、サ行は、舌先を上の歯茎の少し後ろに近づけ、その隙間から息を摩擦させて出す音ですが、受け口だとこの隙間をうまく作れず、息が横から漏れて「シャ、シ、シュ、シェ、ショ」に近い音になったり、こもったような音になったりすることがあります。タ行も同様に、舌先を上の歯茎にしっかりと弾くようにして発音しますが、これが不十分だと明瞭な音が出せません。歯列矯正治療によって、下の前歯が後退し、上の前歯が下の前歯を覆うような正しい噛み合わせになると、舌が正しい位置で自由に動かせるようになり、息のコントロールもしやすくなります。これにより、これまで不明瞭だったサ行やタ行、ナ行、ラ行などの発音が劇的に改善されることが期待できます。特に、アナウンサーや俳優、歌手、あるいは営業職など、言葉を明瞭に伝えることが重要となる職業の方にとっては、滑舌の改善は大きなメリットとなるでしょう。ただし、長年の受け口によって、舌の動かし方に癖がついてしまっている場合は、歯並びが改善されただけではすぐに発音が良くならないこともあります。そのような場合は、言語聴覚士による専門的な発音訓練(舌のトレーニングなど)を併用することで、より効果的に発音を改善することができます。歯列矯正は、美しい歯並びだけでなく、クリアな発声というコミュニケーション能力の向上にも貢献してくれるのです。