歯列矯正治療によって美しい歯並びを手に入れた後、最も避けたいのが「後戻り」です。後戻りとは、矯正治療で移動させた歯が、時間の経過とともに元の位置に戻ろうとする現象のことです。これを防ぎ、治療後の歯並びを長期間安定させるために不可欠なのが、「保定装置(リテーナー)」の使用です。矯正装置を外した瞬間から、リテーナー生活が始まると言っても過言ではありません。なぜ後戻りが起こるのでしょうか。矯正治療で歯が移動した後、歯の周囲の骨や歯周線維(歯と骨を結びつけている線維)は、まだ新しい位置に完全に適応しきっていません。特に、歯周線維はゴムのように元の形に戻ろうとする性質があり、これが後戻りの主な原因の一つとされています。また、舌の癖や口呼吸、頬杖をつくといった悪習癖も、歯並びに影響を与え、後戻りを助長することがあります。リテーナーは、これらの後戻りを防ぎ、歯を新しい位置でしっかりと固定し、周囲の組織が安定するまでの間、歯並びをサポートする役割を果たします。リテーナーにはいくつかの種類があります。代表的なものとしては、透明なマウスピース型の「クリアリテーナー」、プラスチックの床とワイヤーでできた「プレートタイプリテーナー」、そして歯の裏側に細いワイヤーを直接接着する「フィックスドリテーナー」などがあります。どのタイプのリテーナーを使用するか、そしてその装着時間や期間は、患者さんの元の歯並びの状態や治療内容、年齢、ライフスタイルなどを考慮して、歯科医師が決定します。一般的に、矯正装置を外した直後の半年から1年間は、後戻りが最も起こりやすい時期なので、取り外し式のリテーナーの場合は、食事と歯磨きの時以外は、1日20時間以上の装着が指示されることが多いです。その後、歯並びの安定具合を見ながら、徐々に装着時間を減らしていくのが一般的ですが、最終的には夜間のみの装着を長期間続けることが推奨される場合もあります。フィックスドリテーナーの場合は、基本的に24時間装着したままになります。リテーナー生活は、最初は少し面倒に感じるかもしれませんが、美しい歯並びを維持するためには絶対に欠かせないプロセスです。歯科医師の指示をしっかりと守り、根気強く続けることが大切です。また、定期的な歯科医院でのチェックアップを受け、リテーナーの適合状態や歯並びの安定度を確認してもらうことも忘れないようにしましょう。
矯正治療後の後戻りを防ぐ装置を外した後のリテーナー生活