歯列矯正治療において、特に受け口(下顎前突)の改善を目指す場合、「顎間ゴム(がっかんごむ)」または「エラスティックゴム」と呼ばれる小さなゴムが非常に重要な役割を果たすことがあります。このゴムは、患者さん自身が毎日取り外しを行い、上下の顎の異なる位置にあるブラケットのフックなどに引っ掛けて使用します。ゴムの伸縮性を利用して、持続的な弱い力を歯や顎に加えることで、歯を目的の方向に移動させたり、上下の顎の前後的なズレを補正したりするのです。受け口治療における顎間ゴムの主な役割は、下の歯列全体を後方に移動させる、あるいは上の歯列全体を前方に移動させるのを助けることです。例えば、「III級ゴム(クラスIIIエラスティック)」と呼ばれる掛け方は、上の奥歯のフックと、下の前歯または犬歯付近のフックにゴムを斜めに引っ掛けます。これにより、上の歯列を前方に、下の歯列を後方に引っ張る力が働き、受け口の改善を促します。また、噛み合わせの深さを調整したり、特定の歯の傾きを修正したりするためにも、様々な方向や強さのゴムが用いられます。顎間ゴムの効果を最大限に引き出すためには、歯科医師から指示された通りに、正しい位置に、決められた時間、ゴムを装着し続けることが不可欠です。多くの場合、「食事と歯磨きの時以外は、1日20時間以上(できれば22時間以上)」という指示が出されます。つまり、就寝中も含めて、ほぼ1日中装着し続ける必要があるということです。装着時間が短いと、計画通りに歯や顎が動かず、治療期間が延長したり、期待した治療効果が得られなかったりする可能性があります。ゴムは、1日に1回、あるいは歯科医師の指示に従って新しいものに交換します。古いゴムは弾性が失われ、効果が薄れてしまうためです。最初はゴムを掛けるのが難しかったり、多少の痛みや違和感を感じたりするかもしれませんが、徐々に慣れていくことがほとんどです。鏡を見ながら練習したり、専用のツール(エラスティックプレッサーなど)を使ったりすると、スムーズに装着できるようになります。顎間ゴムは、患者さんの協力なくしては成り立たない治療法であり、その効果は絶大です。特に、外科手術を伴わない歯の移動のみで受け口を改善しようとする場合や、外科手術後の最終的な噛み合わせの調整においては、顎間ゴムの役割は非常に大きいと言えます。
矯正用ゴムで受け口は治る?顎間ゴムの役割と効果的な使い方