大人になってから「受け口(下顎前突)」の治療を始める場合、子どもの頃の治療とは異なり、顎の成長が既に完了しているため、治療法や期間、そして抜歯や外科手術の必要性などが変わってきます。しかし、適切な治療計画のもとであれば、多くのケースで満足のいく改善が期待できます。大人の受け口矯正の治療法は、主に「歯の移動のみで改善を目指す方法」と、「外科手術を併用する方法」の二つに大別されます。どちらの方法を選択するかは、受け口の原因が主に歯並びにあるのか、それとも顎の骨格のズレにあるのか、そしてそのズレの程度によって決まります。まず、歯の傾斜や位置の異常が主な原因である「歯槽性(しそうせい)の下顎前突」や、骨格的なズレが比較的軽度な場合は、歯の移動のみで改善を目指すことができます。この場合、一般的なワイヤー矯正やマウスピース型矯正装置を用いて、上の前歯を前方に傾けたり、下の前歯を後方に傾けたり、あるいは歯列全体を移動させたりすることで、正しい噛み合わせに誘導します。歯を動かすためのスペースが不足している場合には、親知らずや小臼歯を抜歯することがあります。治療期間は、症例の難易度によって異なりますが、一般的に2年から3年程度が目安となります。一方、上顎骨の劣成長や下顎骨の過成長といった「骨格性の下顎前突」で、顎の骨のズレが大きい場合は、歯の移動だけでは十分な改善が難しく、外科手術を併用した外科的矯正治療が必要となることがあります。この場合、まず術前矯正として、手術後に理想的な噛み合わせが得られるように歯並びを整えます。その後、全身麻酔下で顎の骨を切って移動させ、プレートなどで固定する手術を行います。手術後、数ヶ月間の術後矯正を行い、最終的な噛み合わせの調整をして治療が完了します。外科的矯正治療は、入院や手術のリスクが伴いますが、顔貌の劇的な改善や、より安定した噛み合わせが得られるという大きなメリットがあります。治療期間は、術前矯正、手術、術後矯正を合わせて、2年から4年程度かかることが一般的です。外科手術を伴う矯正治療は、健康保険が適用される場合があります。どちらの治療法が適しているかは、精密な検査と診断に基づいて、矯正歯科医が総合的に判断します。ご自身の希望やライフスタイル、治療にかけられる時間や費用などを考慮し、歯科医師と十分に話し合って、納得のいく治療法を選択しましょう。